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東京地方裁判所 昭和31年(行)107号 判決 1963年10月10日

判   決

東京都中央区銀座六丁目四番地 交詢ビル二〇六号室

日本白十字経済会 理事長 坂本郁二郎又は

坂本又一郎こと

坂本又一 破産管財人弁護士

原告

野間彦蔵

同都中央区新富町三丁目三番地

被告 京橋税務署長

奈良武衛

同都千代田区大手町一丁目七番地

被告 (昭和三一年(行)第一〇七号事件のみ)東京国税局長

谷川宏

右両名指定代理人訟務管理官

小林定人

法務事務官

安部末男

大蔵事務官

広瀬時江

中原敏夫

右当事者間の昭和三一年(行)第一〇七号源泉徴収所得賦課処分等取消請求事件。昭和三六年(行)第八八号源泉徴収所得賦課処分等取消請求併合事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、被告京橋税務署長が昭和三〇年六月三〇破産者日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎こと坂本又一に対してした匿名組合契約等に基づく利益の分配金に対する源泉徴収所得税合計額金四一七九、〇〇七円及び同加算税合計額金一、〇四四、〇〇〇円の賦課処分及び同被告が昭和三〇年一〇月三一日にした原告の右処分に対する再調査請求を棄却する旨の決定並びに被告東京国税局長が昭和三一年八月一八日にした原告の右再調査決定に対する審査請求を棄却する旨の決定は、いずれもこれを取り消す。

二、昭和三六年(行)第八八号事件についての原告の無効確認の請求を棄却し、同じく取消しの請求にかかる訴を却下する。

三、訴訟費用はこれを五分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告は昭和三一年(行)第一〇七号事件につき、主文同旨の判決を、昭和三六年(行)第八八号事件につき、「被告京橋税務署長が昭和三三年九月三〇日破産者日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎こと坂本又一に対してなした匿名組名契約等に基づく利益の分配金に対する源泉徴収所得税合計額金五八七、七七一円及び同加算税額一四六、七五〇円の賦課処分が無効であることを確認する。もし右請求が理由がないときは右賦課処分を取り消す。訴訟費用は被告京橋税務署長の負担とする。」との判決を求め、被告ら指定代理人は、昭和三一年(行)第一〇七号事件につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、昭和三六年(行)第八八号事件につき、主文第二項と同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、訴外坂本又一(以下破産者という。)は、昭和二七年六月頃から東京都中央区越前堀三丁目五番地において日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎の名称をもつて不特定多数人から資金を受け入れて事業を経営し、又はこれを他に投資していたものであるところ、同二八年一〇月下旬支払を停止し、同二九年九月二八日東京地方裁判所において破産を宣告せられ、原告はその破産管財人に選任せられた。

二、(一)(1)被告京橋税務署長(以下被告署長という。)は、昭和三〇年六月三〇日、原告らに対し破産者が左記のとおり匿名組合契約等に基づく利益の分配金を支給したとして、左記本税額らん記載の源泉徴収所得税及び同加算税を徴収する旨の決定をし、その旨同年七月一日原告らに通知した。(以下本件賦課処分という。)

支払確定月

(昭和二八年)

支給金額

本税額

加算税額

八月

一、七五四、六五四

三五〇、九三〇

八七、五〇〇

九月

二、〇八〇、八七〇

四一六、一七四

一〇四、〇〇〇

一〇月

八、九四八、八三〇

一、七八九、七六六

四四七、二五〇

一一月

八、〇七六、二五五

一、六一五、二五一

四〇三、七五〇

一二月

三四、四三三

六、八八六

一、五〇〇

合計

四、一七九、〇〇七

一、〇四四、〇〇〇

(2) 右決定に対し原告らは、昭和三〇年七月三〇日被告署長に対し再調査の請求をしたところ、同署長は同年一〇月三一日これを棄却する旨の決定をなし、同年一一月二日その旨原告らに通知したので(以下本件再調査決定という。)原告らは同月二六日被告東京国税局長(以下被告局長という。)に対し、右決定及び賦課処分の取消しを求めるため審査の請求をしたが、被告局長は同三一年八月一八日これを棄却する旨の決定をなし、同月二一日その旨原告らに通知した。(以下本件審査決定という。)

(二) さらに、被告署長は昭和三三年九月三〇日原告に対し、破産者が受入資金に対して支払つた匿名組合契約等に基づく利益の分配金に対する源泉徴収所得税額金五八七、七七一円、及び同加算税額一四六、七五〇円を賦課する旨の決定をし、その旨同年一〇月二日原告に通知した。(以下別件賦課処分という。)

三(一)  しかしながら、破産者がその受入資金に対して支払つた金員は、後記第四で詳述するとおり、破産者が出資者らとの間に締結した所得税法第一条第二項第三号にいわゆる匿名組合契約又はこれに準ずる契約(以下匿名組合契約等という。)に基づく利益の分配金ではなく、破産者と出資者らとの間の契約は、利息付消費寄託契約であり、出資者らに支払つた金員は、右寄託契約に基づく利息である。仮に右契約が匿名組合契約等に当るとしても、破産者が出資者らに支払つた金員は、収支計算を無視し、利益がないどころかかえつて莫大な欠損続きであるのに支払われたものであるから、(破産者の損失金は、自昭和二七年六月一日至同年一一月三〇日金二、七一二、九〇一円、自同年一二月一日至昭和二八年五月三一日金三六、八九六、五五七円、自同年六月一日至同年一一月三〇日金一〇四、九六五、五〇〇円である。)それは「利益金」の分配でありうる筈はなく、むしろ出資の払戻しと認むべきものであり、いずれにしても所得税法の上記規定に該当しない。それ故右規定に該当するとして破産者に対し、源泉徴収所得税を課し、かつ、右納税義務ありとして加算税を課した被告らの本件賦課処分、本件再調査決定本件審査決定(以下本件賦課処分等という。)は、いずれも違法であるから、その取消しを求める。

(二)(1)  しかして、破産者の支払金が右のごとく匿名組合契約等に基づく利益の分配金でないことは客観的にも明白であつたから、これを右分配金に当たるとしてした別件賦課処分は重大かつ明白な違法があるものとして当然に無効というべきである。のみならず、別件賦課処分は、すでに破産者のした上記支払金の全部に対する源泉徴収所得税及び加算税として本件賦課処分がなされているにかかわらず、重ねてこれに対する源泉徴収所得税及び加算税を賦課したものであるから、同一課税物件に対する二重の賦課処分であり、この点からも当然に無効というべきである。よつてその無効確認を求め、仮に右処分が当然に無効でないとすれば、その取消しを求める。

(三)(1)  別件賦課処分については再調査及び審査の各決定を経ていないが、右処分は、すでに本件賦課処分等に対する本件取消請求訴訟が係属中であつた昭和三三年九月三〇日に決定されたものであり、被告らは当時に至るまで一貫して原告の主張を争い、本件賦課処分等が適法であるとしており、原告が別件賦課処分に対し再調査ならびに審査の各請求をしたとしてもその結果は明白であつたから、所得税法第五一条第一項但書後段にいう、再調査又は審査の決定を経ないで出訴するにつき「正当な事由があるとき」に該当するものというべきである。

(2)  また別件賦課処分に対する取消しの請求にかかる訴えの提起があつた時には、右処分がなされた時から三年近くを経過しているが、所得税法上の課税処分に対する取消訴訟の出訴期間については、もつぱら同法の規定に則るべきところ、同法第五一条は、再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消し又は変更の訴えの出訴期間につき第二項ないし第四項に規定を設けているけれども、かかる処分に対し同条第一項但し書にいわゆる「その他正当な事由があるとき」において再調査又は審査の決定を経ないで直ちに右処分の取消訴訟を提起する場合の出訴期間についてなんらの規定を設けておらず、同法上他にもかかる規定は見当らない。がんらい租税法規は国民の財産を無償で剥奪するものである点からいつても、その解釈は厳格であるべきであり、したがつて同法上出訴期間につき明文の規定を設けていないことは、当然に出訴期間を定めていない趣旨と解すべきものである。これを実質的に考えても、国民に対し一方的に義務、負担を課する行政処分が違法である場合には何時でもこれを取り消しうるものとすべく、しかも課税処分は一手続中の一行為ではなく、それ自体独立しており、何時取り消しても他の行政行為にはなんらの影響もないのであるから、右のごとく解することは制度の趣旨、目的に合致するものでこそあれ、これに反するものではないのである。

仮にそうでないとしても、別件賦課処分の対象は、本件賦課処分の対象と同一性質のものであつて、後者に対してはすでにその取消訴訟が係属中であり、右事件における主張、立証はことごとく別件賦課処分の取消訴訟にも援用し得る関係にあり、右両事件は元来その運命を共にすべきものであるから、かかる場合は行政事件訴訟特例法第五条第三項但し書にいう正当な事由にあたるものというべきである。

第三、被告らの主張

一、(昭和三六年(行)第八八号事件の予備的請求に対する本案前の抗弁)

別件賦課処分に対する取消しの訴えは、仮に右処分に対し再調査及び審査の決定を経ないで訴を提起するについて正当の事由があるとしても、賦課処分がなされてから三年近く経過して提起されたものであるから、出訴期間を徒過した訴えとして不適法であり、却下さるべきである。

二、原告主張の請求原因事実中一および二の各事実は認める。

三、本件賦課処分等および別件賦課処分は、次の理由によりいずれも適法である。

(一)  破産者と出資者間の契約の実態

破産者は、昭和二七年六月ころから日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は又一郎の名称で、有価証券売買、中古自動車売買、寒天製造販売、テレビ月賦販売、喫茶店、住宅建売、その他の直営事業及び他の事業への投資事業を営み、北海道、東北、関東、東海、中部、近畿、中国、四国、九州の各総支店を置いたほか、総支店傘下の各地九十か所に支店を置き、延一五、〇〇〇名余の出資者とそれぞれ投資契約を締結して投資を受けて前掲事業の経営資金とし、その事業経営による収益を出資者に分配していた。

破産者が出資者との間に締結した投資契約は、すべて匿名組合契約又はこれに類似の契約方式を採つたもので、その概要は次のようなものである。

(1) 出資申込の誘引

あらかじめ新聞、ラジオによる広告、案内書の頒布等の方法により「投資利殖、一口五千円以上、期間三か月以上、配当毎月確配」等として、広く一般から投資を求める趣旨を公示して申込の誘引をおこなう。

(2) 出資契約

申込の誘引に応じて出資しようとする者は、「匿名組合入会申込書」により日本白十字経済会に投資申込をし、同会はこれを承諾して出資金を受領し、出資金、領収書を交付し、なお、後に出資証券を交付する。

(3) 利益の分配

日本白十字経済会は、出資によつて得た資金をその直営事業の維持経営の費用又は他の事業への投資にあて、この収益の分配として契約所定の割合による金員を出資者に対し配当として交付する。

(二)  右のような契約は所得税法第一条第二項第三号、同法施行規則第一条に規定する匿名組合契約及びこれに準ずる契約に該当するものであり、これに基づく利益の配当は課税対象となる利益の分配である。

いまその理由を詳述すれば次のとおりである。

(1) 所得税法第一条第二項第三号、同法施行規則第一条に規定する匿名組合契約及びこれに準ずる契約とは、営業者が一〇人以上の匿名組合員と匿名組合契約を締結している場合の当該契約をいうものとされているから、商法上の匿名組合契約はもちろん、これに類似するすべての契約がこれにあたるものであつて、出資者が相手方事業者に対して出資義務を負担する場合はもとより、出資契約によつては義務を負わないでも現実に約定の金員を交付して事業資金とする場合も含まれるものであることは同条制定の趣旨からしても明らかである。すなわち、そもそも所得税法第一条第二項第三号、貸金業等の取締に関する法律(昭和二四年五月三一日法律第一七〇号)の制定に伴い、同法の禁止規定の適用を受けない資金調達の方法として、昭和二四年頃から本件のようないわゆる匿名組名契約方式あるいはいわゆる株主相互金融方式によつて出資者に資金を拠出させ、これを利用して事業を経営し、その利益を配分するという形態をとつて事業をおこなう者があらわれ、これが次第に増加する傾向にあり、昭和二八年にはこれらによつて吸収された資金の総額は約三〇〇億円に達し、かかる資金調達の方式ないし組織の適法性が国会においても問題とされるに至つたが、政府はこれらの資金調達方式が上記貸金業等の取締に関する法律の禁止する「預り金」に類似するけれども、いずれも「株式または出資をなすこと」に対して「利益を配当すること」を目的とする点においていわゆる「預り金」に該当しないとの見解に到達した反面、かかる方式の下においてなされる出資者に対する配当を徴税上いかにして補捉するかの問題に直面するに至り、殊にかかる配当による所得を有する者が急激に増加しつつあるにかかわらず、出資者又は事業経営者において往々出資者の住所氏名等をいつわるなどの事態を生じ、配当所得者及び所得の正確な把握が期待できず、ために適正な課税をおこない得ないような状況にあつたため、これら多数の出資者から洩れなく徴税し、負担の公平をはかる見地から源泉徴収方式をとることとなつたが、株主相互金融方式の場合には出資者に対する配当が株主に対する利益の配当としておこなわれるため一般株主に対する配当所得に対する源泉徴収制度を適用すれば足り、特別の立法措置を講ずる必要をみなかつたに対し、いわゆる匿名組合方式によるものについては新たな立法措置を講じなければならず、その結果昭和二八年法律第一七三号「所得税法の一部を改正する法律」によつて新設されたもので、「この法律の施行地において事業をなす者に対する出資につき匿名組合契約及びこれに準ずる契約で命令で定めるものに基く利益の分配を受けるとき」は所得税の納付義務があるものとし、所得税法第四一条及び上記改正法によつて新設された同法第四二条第三項の各規定と相俟つていわゆる匿名組合等の契約当事者たる事業又は営業の主体に、その分配利益から出資者の所得税を源泉徴収する義務を負担させるものとしたのである。そして右規定を受けて所得税法施行規則第一条は、「所得税法第一条第二項第三号に規定する匿名組合契約及びこれに準ずる契約」とは、「営業者が十人以上の匿名組合員と匿名組合契約を締結している場合の当該匿名組合契約その他当事者の一方が相手方の営業のために出資をなし相手方がその営業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約で当該営業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約」を指すものとした。このような立法の趣旨及びこれらの規定の文言からも明らかなように、右改正法は、当時その対象とした匿名組合なるものの実体が毎期末の決算に基づいて利益配当をするわけでなく、損失不分担を約し、毎月確定率による利益の分配をとりきめているのがその大部分を占めているにもかかわらず、そのいわる匿名組合員が営業者の「営業のため出資」をなし、営業者がこれに対して「利益の分配」をすることを約する点にいわゆる匿名組合契約の本質があるものと認め、税法上の見地からかかる要素を有する契約をいわゆる匿名組合契約等として把握し、右契約に基づく利益の分配につき所得税の源泉徴収義務を課したのであるから、右規定の解釈においては、当該契約が商法上の匿名組合契約に該当するか否かにかかわらず、もつぱら税法上の見地からそこにいう「匿名組合契約等」に該当するかどうかを決すべきことは当然であり、かかる見地から考えるときは、ある契約が本法にいう「匿名組合契約等」にあたるか否かは、(イ)当事者の一方が相手方の営業又は事業のために出資すこと、(ロ)相手方がその営業又は事業から生ずる利益の分配をなすことを約すること、(ハ)出資者が一〇人以上あることの三要件を具備するか否かによつて定まるものと解すべきであつて、これらの要件を備える以上、いかなる特約がこれに付加されるとしても、その契約が本法にいう「匿名組合契約等」に該当することにはかわりがないのである。しかして右の要件における「事業への出資」と「利益の分配」の観念について説明を加えると、まず「当事者の一方が相手方の営業又は事業に出資する」とは出資者の出捐にかかる金銭等が事業者の事業資金にあてられることを契約の要素とすることを意味するものであつて、この点において出捐された金銭等の使用目的に限定のない金銭消費貸借や寄託と区別され、また後者においては元本の返済が契約の要素をなすに対し、前者においてはこれを要素としない点においても両者に区別が存するのである。次に「相手方がその営業又は事業から生ずる利益を分配すべきことを約する」とは、文字どおり事業者が出資者に対し当該事業から生ずる利益分配を約することをいうのであるが、ここにいう利益の分配は、必ずしも会社会計上の利益や商法の匿名組合契約において予定されている事業利益のごとく実質的な利益の分配を意味するものではなく、いやしくも出資に対する利益の分配としてなされることが約されているものである限り、実質的な事業利益によつて裏づけられていると否とにかかわらず上述の「利益の分配」に該当するのである。けだし、上記のいわゆる匿名組合契約等により事業資金獲得の方式においては、できるだけ多数の者から多額の事業資金を集中的に集めるため、出資期間を短くしてしかも事業の盛否、将来の見透しを勘案したうえ確配できるであろう、最高の利益配当額または配当率をもつて利益配当をおこなうこととして出資者を誘引するのが一般であり、前記改正法は、かかる確定率をもつてする利益配当といえども、なお上述の意味における「出資」に対する利益の分配としてなされている点をとらえて、これを「利益の分配」として把握したものであるからである。要するに、右にいう事業利益の分配は、あくまでも形式的な意味におけるそれであつて、結局上記の出資につき事業者が出資者に対してなす給付であつて、出資の払戻し以外のもの一切を指すものであり、その給付の方法、時期及び割合ないし額は問うところではないのである。(株式会社においては、開業準備に相当の長時日を要する特定企業において資本の調達を可能ならしめるため利益配当に代るべき建設利息の株主への配当が認められているが、これはもとより民法上の利息ではなく、所得税法はそれが株主に対し出資額に応じて支払われる点に着目してこれを配当所得としてとらえているが、いわゆる匿名組合方式における出資者に対する支払金も株式会社における建設利息と同じ性質をもつているし、また株式会社におけるいわゆる蛸配当も、所得税法上は配当所得として把握されているのであつて、上記のごとき改正法の考え方は、所得税法上における右の法理をとり入れたものにほかならない。)

(2) 以上の解釈を前提として本件における破産者と出資者との間の契約及び右契約に基づいて破産者が出資者に支払つた金員の性質について検討するに、破産者は日本白十字経済会の定款(甲第一号証)を作成し、右定款においては、日本白十字経済会が商法上の匿名組合契約であることについて、他から指摘されることなきを期して、同会が商法第五三五条ないし第五四二条の規定に基づいて設立されるものであること、破産者が匿名組合の営業者であり、出資者は匿名組合員となる法律関係、組合員は破産者の営業による収益の分配を受けることとなるが、商法第五三八条の適用を妨げないこと、組合員の恣意的な行動を許さず、契約を解除し、会から脱退するについても会に重大な影響を及ぼすことのないよう自制すべきこと等を明らかにし、さらに匿名組合申込証(甲第二号証の三)を作成して出資者に匿名組合契約を締結せんとするものであることを了知させ、入会者に対しては後日出資証券(甲第二号証の二)を作成交付し、同証券においては加入者が出資者であることを明記し、かつ、同証券が有価証券として取り扱われることを明言しているのであつて、これらの点からみて破産者が日本白十字経済会を商法上の匿名組合として設立し、広く一般大衆から出資金を募集する意図を有し、かつ、これを表示していたことは一点の疑う余地もなく、他方破産者からの申込の誘引に応じて同会に入会しようとする者は、前記定款、入会申込証、出資証券等によつて、同会が商法上の匿名組名であること、同会に入会すれば、組合員として出資者たるの地位に立つこと、自己の出捐する金員が出資金であること、出資に応じて同会から事業利益の分配を受ける権利を取得することを了知して本件契約を締結したものと認むべきであるから、契約当事者の意思の合致点は、商法上の匿名組合契約を締結することにあつたことは明らかであるといわなければならない。

次にその契約内容をみるに、出資者の出捐にかかる金銭又は有価証券については、消費貸借や消費寄託の場合におけるごとく元本の返還を無条件に保障するような定めはなく、(もつとも、三か月を一応の出資期間と定めているが、右は不時の災害等の例外的事由のため出資者が解約を希望する場合を除き三か月経過後も自動的に契約が継続する約旨にすぎないと解されるのみならず、元本全額返還義務も明定されていない。)、出資者の出資金に対しては所定の利益配当を毎月出資応答日に支払う旨を定めているか、その所定の利益配当額なるものについても、契約上出資金額に対し一定率の配当をおこなうものとしては定められておらず、そこに浮動性が予定されているのであつて、これらの点からみても、上記契約が金銭消費貸借や寄託と根本的に性質を異にするものであることが明らかである。してみると、破産者と出資者との間の契約は、それが文字どおり商法上の匿名組合契約に該当すると否とにかかわらず、事業者たる破産者すなわち日本白十字経済会に対して出資者がその事業運営資金として金銭等を出資し、破産者がこれに後し同会の規定する利益配当をすることを約したものであり、その出資者が十人以上であることは明らかであるから、右契約は所得税法にいう匿名組合契約等に該当するものであり、右契約に基づいて破産者が出資者に支払つた金員は、右匿名組合契約等に基づく利益の分配金であるといわなければならない。もつとも、上記日本白十字経済会の規定する利益配当は、いわゆる会社会計等における利益計算ないし利益分配の方法によらず、また決算という会計処理とは無関係に、全く独自の方法により算定され、支払われるものであるが、それが実質的意味における利益の分配であるかどうか、換言すれば決算上の利益に裏づけられているかどうかは所得税法上の利益分配となるかどうかと関係のないことすでに述べたとおりであるから、右はなんら上記結論の正当性を左右するものではない。

(三)  破産者は、昭和二八年八月から一二月までの間に請求原因二(一)(1)記載の徴収決定のとおりの金額及び昭和二九年九月から同年一一月までの間に左記のとおりの金額を出資者に支払つた。

配当金支払額

本税額

加算税額

九月分

一五、八〇〇

三、一六〇

七五〇

一〇月分

二、〇二七、九二八

四〇五、五三〇

一〇一、二五〇

一一月分

八九六、四六九

一七九、〇八一

四四、七五〇

合計

五八七、七七一

一四六、七五〇

これらの支払金は、いずれも出資者との間の上記契約に基づく利益金の分配として支払われたものであるから、破産者はこれにより本件賦課処分および別件賦課処分において示された額の所得税源泉徴収義務を負つたものといわなければならない。原告は、破産者のした上記支払は、利益がなくかえつて莫大な損失を出していたのにこれを無視してなされたものであるから利益金の分配にあたらないというけれども、いやしくも利益金の分配として支払われたものである以上、現実に利益があつたかどうかはその支払金の性質を左右するものでないことは累述のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

また加算税の賦課については、破産者が右により徴収納付すべき所得税を三か月をこえて納付しなかつたので、税額(所得税法第五六条第六項の規定により一、〇〇〇円未満切捨て)に百分の二五の割合を乗じて計算した金額に相当する源泉徴収加算税を賦課したわけであり、結局、本件賦課処分等および別件賦課処分には、なんらの違法は存しない。

第四、被告らの主張に対する原告の反論

一、破産者が昭和二七年六月ころから日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は又一郎の名称で有価証券売買、中古自動車売買、喫茶店を直営事業としていたこと及び破産者が日本白十字経済会に対する資金提供者らに対して請求原因二の(一)の(1)記載の金額の金銭を支払つたことは認めるが、その余の被告らの主張は争う。

二、破産者とその資金提供者との間の契約は、金銭消費貸借契約かあるいは金銭消費寄託契約であつて、所得税法にいう匿名組合契約又はこれに準ずる契約ではない。

(一)  まず、所得税法第一条第二項第三号にいう匿名組合契約又はこれに準ずる契約の意義について原告の見解を述べる。

憲法第三〇条は、「国民は法律の定めるところに従い納税の義務を負う。」と規定し、同法第八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定し、いわゆる租税法律主義を採用しているが、これは課税が憲法の保障する財産権を無償で剥奪する行政行為であることにかんがみたものであり、この租税法律主義は、あたかも罪刑法定主義と同様に、税法の解釈を厳格にすべきことを要請し、法に欠陥のある場合にほしいままに補充解釈、類推解釈を施すことを禁止するものである。

ところで、前記所得税法第一条第二項第三号は、「匿名組合契約及びこれに準ずる契約で命令で定めるもの(匿名組合契約等)」と規定し、同法施行規則第一条には「匿名組合契約云々」とあるが、ここにいう匿名組合契約がいかなる契約であるかについては、税法は他になんら規定するところがない。したがつて、税法にいう「匿名組合契約」は、商法第五三五条以下に規定する「匿名組合」を指すものと解さなければならない。このことは、税法の把握対象が民法、商法等の規定に従つて営まれる経済行為や、これらの法規の下に成立し、活動する社会的経済的な実在ないし形成物であることからいつても当然の解釈というべきである。そして所得税法施行規則第一条にいう「その他当事者の一方が相手方の事業のため出資をなし相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約」というのも、右の解釈から推すときは、そこにいう事業が商行為以外の営利行為を意味していることのほかは、その他の成立要件は匿名組合のそれと同一のものを指すものと解すべきことも当然である。

所得税法の上記改正規定の制定が被告主張のごとき動機に基づいて立法されたものであり、当時の立法者が主観的には被告主張のごとき趣旨をあらわすつもりで上記のような規定を定めたものであるとしても、いつたん制定された法規は、かかる制定者の主観的動機ないし意図とは無関係に表現された規定の文言自体に即して客観的にその意味するところを把握、解釈すべきことは、成文法の解釈における自明の原理であつて、かような見地に立脚し、かつ、租税法律主義の要請する厳格解釈の立場から考察するときは、右規定につき被告主張のごとき解釈を容れる余地はなく、上に述べた解釈こそ唯一の正しい解釈であるとしなければならない。そして商法は、匿名組合契約なるものについて一定の要件を規定し、かかる要件をそなえるもののみを同法上の匿名組合契約と定めているのであるから、右の要件の一部を欠くものは、同法上の匿名組合契約に該当せず、したがつてまた所得税法上の匿名組合契約に該当しないのである。

(二)  そこで商法の匿名組合契約の要件についてみるに、商法第五三五条は、「匿名組合契約ハ当事者ノ一方カ相手方ノ営業ノ為メニ出資ヲ為シ其営業ヨリ生スル利益ヲ分配スヘキコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス」と規定している。右規定は、同法第五編の商行為に関する規定の中に含まれているが、これは匿名組合契約が営業者の営業のためにする行為として商行為たるがためにほかならず、匿名組合自体は、民法上の組合や合名会社、会資会社と同じく、組織法上又は社会法上の制度なのであつて、匿名組合契約を一般商行為のように行為法的な角度からとらえることは正当でない。すなわち匿名組合は、民法上の組合や合名会社等と同じく共同の経済上の利益の獲得という目的を達成するために協力するということをその本質とするのであつて、共同の目的を欠き、又はかかる目的のための協力という要素を欠くものは、もはや匿名組合とはいい難いのである。上記規定はこの趣旨を定めたもので、右法条にいう「出資」とは、これをもつて営業者がその特定の営業を自己の名において、ただし匿名組合の共同計算で営むことによつて、組合すなわち当事者双方共同の経済上の利益の獲得という目的を達成するために匿名組合員が営業者の財産に帰属するようになす金銭その他の財産の給付をいうものであり、「其営業ヨリ生スル利益」とは、営業者が匿名組合員から受け入れた出資をもつて営んだその営業から生ずる利益であつて、その実質は匿名組合員と営業者との協力によつて得た両者共同の利益なのである。すなわち匿名組合員の出資は、組合の目的を達成するためにする協力手段であり、匿名組合員の分配を受ける利益はこの組合の目的の達成によつて得られた利益の分け前であつて、この両者は匿合組合において当然に対をなすものである。したがつて、匿名組合契約が成立するためには、契約の一方の当事者たる金員の出捐者が右の意味における金員の提供(出資)をなし、その分配を受ける利益は右のような内容のものでなければならない。換言すれば、当事者の一方が相手方の営業のために金銭を給付してもその営業が特定されていなければ、その給付は出資とならず、また特定の営業のために金銭を給付しても、その営業から生ずる利益の分配を受けるのでなければ(営業から生ずる利益であるから、当然に危険の分担を伴い、分配されるべき利益の額は浮動性をもつている。)同様にその給付は出資とならないし、他方当事者の一方が相手方のある特定の営業から生ずる利益の分配を受けても、その営業のために共力、出資をしない場合にもまた、匿名組合は成立しない(一方が他方の特定の営業のために金銭を給付し、その営業から生ずる利益の分配を受ける場合においても、その給付が単なる元本の利用のための貸主としての給付にすぎないいわゆる共算的消費貸借は匿名組合ではない。)のである。

(三)  以上の解釈を前提として本件の契約をみるに、破産者のなす契約の宣伝、申込の誘引、契約締結の方法はおおむね被告主張のとおりであるが、締結された契約内容とみると、それが匿名組合契約又はこれに準ずる契約ではなく、むしろ金銭消費貸借ないしは金銭消費寄託契約であることが明らかである。すなわち、

(1) まず日本白十字経済会は、その営業案内(甲第二号証の一)等で数種の事業を営んでいる旨標榜していたが、いわゆる出資金を受け入れるにあたり、それが右のいずれの事業のために使用されるのであるかすら明らかにされておらず、出資者も敢えてこれを問わなかつたのであるから、資金提供者のなす金銭の給付は、営業者の特定の営業のためにするそれではなかつた。

(2) 次に、匿名組合は営業者と個々の匿名組合員との二当事者間における個々の契約関係であるから、一営業者と多数の組合員が匿名組合契約を結んだ場合には、組合員の数に応ずる匿名組合が成立したことになり、営業者はその各々について独立の損益計算をしなければならない筋合であるのに、破産者はその受け入れた現金、有価証券を各出資者毎に分別計算することなく、すべてこれを会の資産中に合算し、損益計算も各出資者ごとに分別してすることなく、毎年五月末日と一一月末日の二回にのみ総括して損益計算をするのみであつた。また、匿名組合においては、営業者は帳簿上組合員の出資勘定及び人名勘定を設け、契約終了の時にそなえて、常に出資の価格、若し損失のあつた時は返還すべき残存の出資金額を明らかにしておかなければならないものであるのに、日本白十字経済会にはかかる帳簿組織も、記帳もなかつた。

(3) また本件のいわゆる出資契約におけるいわゆる利益配当は、「毎月五分確配」すなわち出資元本に対し一か月五分の割合による利益配当を確約するというのであるから、出資者は事業の成績と関係なく、その損失を分担することなく確定額の補償を受けるのであつて、それが「利益の分配」なる観念と相容れないことは明らかである(被告は株式会社の建設利息や蛸配当の例を援用するが、株式はいかに輾転をしても消滅することなく結局株式会社と運命を共にするから、建設利息や蛸配当は早晩商法所定の期間計算や清算によつて調整されるのであり、この意味においてこれらはその事業から生ずる利益の配当といいうるけれども本件出資契約においては、支払配当金は損益計算と関係なく処理されるのみならず、後述するように解約によつて提供した資金の元本の返還を受け、営業者との関係を全く消滅させることができるのであるから、両者を同一に論ずることはできない。)。

(4) 本件契約においては、資金提供者は三か月を経過したのちにおいては破産者との契約を解除し、さきに提供した資金額すなわち出資元本の全額の返還を受けることができた(被告は、三か月の期間を経過しても自動的に契約は継続し、不時の災害等の事由がある場合に限り解除できる趣旨であると主張するけれども、その解釈は妥当でなく、三か月の期間が過ぎたのちは期間の定めない契約として存続し、契約者はいつでも解除できるのであり、不時の災害等の特別の事由があるときは、三か月の据置期間内でも出資金の返還を請求しうる趣旨と解すべきものである。)。

(5) いわゆる出資者には、事業遂行請求権も監視権も認められていない。

以上述べた諸点に照らし、破産者といわゆる出資者との間の契約が匿名組合契約等に該当するものではなく、かえつて上記のように、出資者が一定の期間経過後出資元本の返還を求めうること及び提供資金の全額と期間に応じた一定率による金額の支給を受けうることに照らすときは、右契約は利息付消費貸借あるいは消費寄託契約であることは明らかであるといわなければならない。なお、本件契約が匿名組合契約とよばれ、出資者に対する給付金が利益の配当金とよばれていたことは、いささかも右契約の性質に影響を与えるものでなく、その性質はあくまでも契約そのものの実質によつて決せられるべきものであることはいうまでもない。

第五、立証≪省略≫

理由

一、原告主張の請求原因事実中一及び二の各事実ならびに破産者が日本白十宇経済会に対する資金提供者らに請求原因二の(一)の(1)記載の金銭を支払つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、昭和三一年(行)第一〇七号事件について。

(一)  本件における争点は、破産者が日本白十宇経済会なる名称をもつて事業を経営するにあたり不特定多数人からその資金を受け入れるためにこれらの者と締結した契約が所得税法第一条第二項第三号にいわゆる匿名組合契約又はこれに準ずる契約に該当するかどうか、従つて破産者が右契約に基づいて出資者らに支払つた支給金につき匿名組合契約等に基づく利益の分配金として同法第四一条、第四二条第三項の規定により所得税の源泉徴収納付義務があるかどうかの一点に帰するので、以下この点について判断を加える。

(二)(1)  破産者が昭和二七年六月頃から日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は又一郎の名称で有価証券売買、中古自動車売買、喫茶店を直営事業としていたことは当事者間に争いがなく、(証拠―省略)をあわせると、破産者は前記のように日本白十字経済会なる名称をもつて事業を運営するにあたり、日本白十字経済会定款なるものを作成し、右定款においては、同会が商法第五三五条ないし第五四二条の規定に基づいて設立されるものであること、同会は組合員の出資を受けて営業者坂本が経営するものであること、出資者は匿名組合員として利益の分配を受けるけれども、商法第五三八条の規定の適用を妨げないこと、組合員はやむをえぬ事由のあるときは契約期間の終了時において解約をすることができるが、会に重大な影響のある場合は弊害の少ない方法によるものとすること等が定められていること、破産者は、営業案内書等においても右会が米国式投資法を採用し、商法の匿名組合契約の規定によつて組織運営されるものであることを表明し、同会の事業内容としてはテレビの製造販売、鉱山の経営、農水産物の加工製造販売、自動車の購入販売、金銭の貸付、不動産の売買、あつせん、映画の製作販売、出版、喫茶店、美容店の事業を掲げ、また右営業案内書等のリーフレツト、新聞広告、職員の説明等において、同会は優秀な専門家により多額の出資金を科学的に運営することにより莫大な利益を収めることができるから、毎月五分の利益配当が確実に行なわれ、最も有利かつ確実な投資方法である旨を宣伝して出資者を募り、出資契約の締結にあたつては、出資者に入会申込書に出資金を添えて提出させ、これに対して出資の証として日本白十字経済会理事長坂本郁二郎名義の日本白十字経済会出資証券なる証書を交付していたこと、以上の事実がそれぞれ認められ、これらの事実によれば、破産者といわゆる出資者らとの間に締結せられる出資契約は、いわゆる出資者が営業者たる破産者の営業のため一定額の資金を提供し、これに対して破産者がその営業から生ずる利益を分配することを約する商法上の匿名組合契約ないしこれに類似する契約であるような観がないでもない。

(2)  しかしながら、(証拠―省略)をあわせると、(イ)日本白十字経済会の営業案内書には、入会申込については出資金を一口五、〇〇〇円とし、何口でも申し込むことができること、配当金は現金出資の場合は毎月五分で、一か月目ごとの各契約日に現金で支払うこと、契約期間は三か月以上であること、不時の災害等で金銭の入用を生じたときは、何時でも(ただし申込金一〇万円以上の場合は一週間前に申し出ること。)元金、配当金を取り揃えて支払うことがそれぞれ記載されているほか、同会発行の宣伝リーフレツト等にも、出資金額は五、〇〇〇円以上、期間は三か月以上で毎月五分の割合で確実に配当が行なわれる旨が記載されており、一般公衆に対しては出資金の拘束期間が三か月で出資金に対しては毎月五分の割合の金員が確実に支払われる旨をもつて宣伝がなされていたこと、(ロ)入会希望者は、これらの宣伝を信じ、毎月五分の高率による金員が確実に支払われ、かつ、出資金の据置期間が三か月という短期間である点においてきわめて有利な利植方法であると考えて入会を申し込むのが一般であり、日本白十字経済会の事業内容については深い関心を持たず、これが経営に参与する主観的な意図は全く有しないまま入会の申込みをし、同会の職員もまた入会希望者の上記のごとき意図を認識しながら営業案内書記載の月五分の配当が確実になされること、出資後三か月を経過すればいつでも出資金全額の返還を請求しうることを裏書するのみで契約の具体的内容及び事業内容やその実績、見透し等については別段の説明を加えないで入会を勧誘し、たまたま、果して実際に月五分の配当実施が可能かどうかを危ぶむ顧客に対しては単に理事長たる坂本を信頼して貰うよりほかはない旨を説明するにとどまつたのみならず、これら契約担当職員は、坂本から会の事業内容の詳細やその収支関係については説明指示を受けず、これらの点について全く知識を有していなかつたこと、(ハ)いわゆる入会契約が締結せられた場合には、右入会申込を受け付けた場所が同会の支店である場合には、一応入会者に出資金の仮領収証を発行し、各入会者毎に出資台帳カードを三通作成し、受け入れた現金は各支店名義の預金口座に入金し、これから当該月の支店の諸経費、出資者に対する配当金、期限満了時における出資金の返還金にあてたうえ、その残金を総支店に送付するほか、前記出資者カード二通及び毎週作成する週報を総支店に送付し、総支店は右カードに基づいて出資証券を発行して支店に送付し、支店はさきに交付した仮領収証と引換えに出資証券を出資者に交付していたこと、(ニ)右出資者カードには、出資者の住所氏名、出資金額、申込年月日の記載のほか、毎月支払う配当金の額、配当年月日を記載し、出資者から配当金の領収印を徴し、解約になつた場合にはその旨が記載される仕組みとなつていたこと、(ホ)総支店は、支店から送付されたカード及び出資金を取りまとめて本店に送付し、本店はその受け入れた出資金につき出資者毎に口座を設けることなくこれを一括して事業運営資金に繰り入れており、従つて各出資者につきその出資金と事業の運営による損益計算との間に関連をつけるような措置は全く講ぜられていなかつたこと、(ヘ)三か月の期間経過後解約の申し出があつたときは、出資金の全額を返還し、これにより出資者は完全に会から離脱し、相互になんらの権利義務関係が残らないものとして処理されていたこと、(ト)同会は会の創設以来多額の欠損続きであるにかかわらず、出資者に対してはかかる損益計算とは全く無関係に毎月五分の配当金の支払いが当然のこととして継続して行なわれ、これら現実に支払われた配当金は、会の損益計算書上は一括して当期損失金として計上されていたこと、以上の事実を認めることができる。ところで商法上の匿名組合契約は、本来営業者と匿名組合員との間の個別契約であり、各匿名組合員の出資金につき、その出資金による営業の結果の個別的な損益計算に基づいて利益を生じた場合にこれを分配することを要素とするものであるが、上記破産者と出資者との間の契約をみるに、破産者はもともと出資者ごとにかかる個別的計算を行なうことを予定していないのはもちろん、始期および終期の一致していないしかも短期間の多数の出資者につき出資金と営業上の収支関係との間に関連をつけることは当初から不可能事としてこれを断念しており、要する高率の確定額の配当金の支払確約ならびに短期間における投資金の全額回収の保障によつて多数の者の投資を勧誘し、他方、出資金はすべて一括して会の運営資金にあて、将来の事業利益によつて出資者に対する上記高率の配当金の支払いを可能とすることを期待したというにとどまり、出資者もまた会の事業内容やその成績に格別の関心なく、これに積極的に関与する意図もなく、専ら高率の一定率による配当金の支払いを信じて出資を承諾したのであるから、破産者との間の契約は、ひつきよう出資者が破産者に対してその事業資金にあてるため一定の期間一定の額の金銭を提供する義務を負い、他方破産者は右資金利用の対価としてこれによる事業の成果とは無関係に出資額と期間に応じ一定率による金銭を配当金なる名目で支払う義務を負うことを内容とする契約にほかならず、かかる契約が商法所定の匿名組合契約に該当しないことは明らかであり、破産者がさきに述べたように会の組織について出資者との間の商法上の匿名組合契約によるものなることを標榜、宣伝し、定款、営業案内書、出資証券等に匿名組合契約なる字句を用いているのは、多数出資者からの資金の受入れが貸金業等の取締に関する法律によつて禁ぜられたいわゆる「預り金」の受入れに該当するとされる危険を防止するための便法として、単に形式上匿名組合契約なる名称を用いたものにすぎず、契約の実体をあらわしたものではないと認めるのが相当である。(中略)他に右認定を動かすに足りる証拠はない。(もつとも、証人(省略)の各証言によると、日本白十字経済会は、昭和二八年一〇月末頃同様の方式で出資者を募つて事業を営んでいた保全経済会が配当金の支払停止をした余波を受けて出資者が激減したため約定額の配当金の支払が困難となつたので、一部債権者を集めて債権者集会を開き、今後の配当金の率の減少について了解を得たうえ、これを月三分五厘に減少した事実が認められるけれども、右配当率の減少が、破産者において出資者との契約上事業成績に応じて一方的に配当金の率を増減しうる旨の約定に基づいなされたものであり、出資者らもこれを了承していたものであることを認めるに足りる証拠はなく、出資者らは月五分の配当金を請求しうる関係にあるけれども、会の財政状態にかんがみ、その支払いが不能であるということから、やむをえず減少された率による配当金の支払に対して格別の異議をとなえかつたにすぎないとも解しうるわけであるから、右の事実は毫も上記認定を動かすものではない。)

(三) 被告らは、所得税法第一条第二項第三号にいわゆる匿名組合契約等は、商法上の匿名組合契約と同一の観念ではなく、同法施行規則第一条の規定からも窺われるように、(1)当事者の一方が相手方の事業のため出資をなし、(2)相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約で、(3)当該事業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約をいうものであり、この三つの要件を備える契約である限り、商法上の匿名組合契約に該当するかどうかにかかわらず所得税法上の匿名組合契約等に該当するものである、そして右にいう出資とは、出資者が事業者の事業又は営業の資金にあてるべき金銭等を出捐することをもつて足り、利益の分配とは、右の出資に基づき事業者が出資者に対してなす給付であつて、出資の返還以外のものをいうのであるから、上記破産者といわゆる出資者との間の契約は右にいう匿名組合契約等の(1)(2)の要件を具備している旨主張する。しかしながら、所得税法施行規則第一条の定める上記規定は、匿名組合契約そのものの定義について規定したものではなく、他に同法上右匿名組合契約の意義について規定したものはなく、他方匿名組合契約なるものはきわめて技術的な法律用語であつて、成法上は商法においてのみその意義及び内容を規定しているにとどまるのであるから、所得税法にいう匿名組合契約は商法上のそれと同一のものをいうと解さざるをえず、したがつて所得税法施行規則第一条所定の匿名組合契約に準ずる契約についての定義についても、商法上の匿名組合契約の性質に照らして、そのいわゆる出資及び利益の分配の観念を決すべきことが当然である。しかるところ、商法上の匿名組合契約においては、匿名組合員が営業のために出資をする義務を負い、営業者はこれに対して営業から生ずる不確定の利益を分配する義務を負う点において他の契約と区別される特殊性を有するとされているのであるから、所得税法施行規則第一条にいう出資及び利益の分配なる用語もこれと同意義に解さざるをえず、しかるときは、いわゆる出資者に対しその出資に対する対価として事業の利益の有無に関係なく確定率の金銭等の支払いを約する契約のごときものは、利益の分配たる本質的要素を欠くものとして所得税法上の匿名組合契約等に該当しないものといわなければならない。右の解釈に反する被告らの主張はこれを採用することができず、上記所得税法の匿名組合契約等に関する規定が設けられた立法上の理由が被告ら主張のごとくであつたことは、右の解釈の正当性を左右するものではない。そこで右解釈に照らして破産者と出資者らとの間の上記契約の性質を検討するに、上記認定の事実によれば、事業者たる破産者は、出資者らに対し、事業による利益の有無とは無関係に毎月出資額に対する月五分の割合による確定額の金銭を出資の対価として支払うことを約しているのであるから、たとえそれが配当金と名づけられているにせよ、その実体において不確定利益の分配たる性質を有しないものといわざるをえず、従つて右契約は、原告の主張するように金銭消費貸借契約ないしは消費寄託契約に該当するかどうかにかかわらず、すでに右の点において所得税法にいわゆる匿名組合契約等には該当しないものといわなければならない。

(四)  そうすると、被告税務署長が破産者の出資者らに対して支払つた配当金を所得税法上の匿名組合契約等に基づく利益の分配金に該当するものとし、破産者に源泉徴収義務ありとしてした本件課税処分はこの点において違法であり、右処分を正当としてした同被告及び被告国税局長の再調査決定及び審査決定もまた違法であつて取消しをまぬかれない。よつて右各処分の取消しを求める原告の本件請求は正当として認容すべきである。

三、昭和三六年(行)第八八号事件について。

(一) まず原告の第一次的請求の当否について考えてみるに、被告らが破産者にその支払つた配当金につき所得税法所定の源泉徴収納付義務ありとしてした別件賦課処分が違法であることは、さきに二、において詳述したとおりである。しかしながら、破産者と出資者らとの間のいわゆる出資契約が商法上の匿名組合契約としてなされるものであるとの形式をとつていたこと前記のとおりであることに加えて、上記認定の事実関係からも明らかなように、日本白十字経済会の組織運営の実体がかなり複雑であり、右出資契約の内容を正確に把握することが困難で、これが商法上の匿名組合契約ないしはこれに類似の契約たる性格をもつかどうかについては解釈上異論の成立する余地もなしとしないと考えられること、(証拠―省略)によれば、被告らの主張するように、前記所得税法の一部改正がなされた頃本件契約その他これに類する契約関係の下に多数出資者から資金を集めて事業を運営する匿名組合等の方式による事業形態が政府部内および国会において問題となり、これらが必ずしも商法上の匿名組合契約ないしはこれに類似するものには当らないといえないとの見解の下に所得税法の一部改正がなされ、同法第一条第三号後段等の規定が設けられたものであることが認められること、および(証拠―省略)により認めうるように破産者自身右同法改正後は出資者らに対する配当金の支払いについては同法上所得税の源泉徴収義務ありとして出資者らに説明をしたうえ配当金のうちから源泉徴収額を控除していること等の事実に照らすときは、上記賦課処分の違法は、これらの処分を当然に無効たらしめるほど明白なものであるとすることはできない。

次に原告は、別件賦課処分は本件賦課処分と同一の課税物件に対して二重になされた賦課処分であるから当然に無効である旨主張するが、破産者が昭和二八年八月から一二月までに請求原因二、(一)(1)の支給金額らん記載の各金額を出資者らに支払い、これに対して本件賦課処分がなされたことは当事者間に争いがなく、破産者が右のほかになお昭和二九年九月から同年一一月までの間に被告らの主張三の(三)記載の配当金を支払つたこと、および別件賦課処分が右の配当金の支払いについてなされたものであることは弁論の全趣旨に徴してこれを認めるに足り、別件賦課処分は要するに本件賦課処分において課税洩れの部分についてなされたものにすぎないわけであるから、二重課税の違法があるとする原告の上記主張は理由がない。

そうすると、別件賦課処分が当然に無効であるとし、その確認を求める原告の第一次的請求は失当であり、これを棄却すべきである。

(二)  よつて原告の第二次的請求にかかる訴に対する被告らの本案前の抗弁についてみるに、被告署長が別件賦課処分を原告に通知した昭和三三年一〇月二日から原告が、右処分の取消しを求める本訴を提起した日であること記録上明らかな昭和三六年九月一九日までの間には二年一一か月余の期間を経過しており、所得税法ないしは行政事件訴訟特例法所定の出訴期間経過後に提起された訴であることが明らかである。原告は、所得税法第五一条但し書の規定により再調査請求又は審査請求手続を経ないで出訴しうる正当事由ある場合の取消訴訟の提起については同法上出訴期間の定めがないから、この場合には出訴期間の制限は全くないものと解すべきであると主張し、所得税法上右の場合の出訴期間について明文の規定がないことは原告主張のとおりであるけれども、同法第五一条の規定を通覧すると、同法は同法上の再調査の請求又は審査の請求の対象になる処分に対する取消訴訟の出訴期間は一般にかかる訴訟を提起することができるようになつた時から三か月とし、行政事件訴訟特例法所定の六か月の出訴期間の定めを短縮していることが窺われるから、前記所得税法第五一条第一項但し書の正当事由ある場合として再調査決定又は審査決定を経ないで直接出訴する場合の出訴期間についても、その処分の通知を受けた日から三か月と解するのが相当であり、仮にこのように三か月の短期出訴期間を肯定することができないとすれば、当然一般法たる行政事件訴訟特例法第五条第一項の規定の適用を受くべきもので、所得税法が右の場合の出訴期間について明文の規定を設けていないことから同法がこの場合に行政事件訴訟特例法の規定による一般的な出訴期間の制限をも排除した趣旨と解することはできない。よつて原告の主張は採用することができず、被告らの抗弁は理由があり、原告の第二次的請求にかかる訴は不適法として却下をまぬかれない。

四、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 位野木 益 雄

裁判官 中 村 治 朗

裁判官大関隆夫は転勤につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 位野木 益 雄

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